テレワークは転職を増やすのか

『検証・コロナ期日本の働き方-意識・行動変化と雇用政策の課題(樋口美雄・労働政策研究研修機構編)』, 慶応義塾大学出版会, 2023. [書籍情報]

共同研究者: 大竹文雄(大阪大学)

要約

本章はJILPTが実施したアンケート調査の回答データ(以降、JILPTデータ)を用いて、テレワークが転職意向と転職活動に与える影響とその影響の男女差を検証する。素朴な労働移動モデルに基づいて、我々の仮説を整理した。第一に、テレワークは転職の期待効用や今の仕事の効用の変化を通じて、転職意向に影響を与える。第二に、テレワークは、同僚や上司の監視が弱くなることを通じたサーチコストの減少によって、テレワークは転職活動に正の影響を与える。分析の結果、テレワークは男女の転職意向に影響を与えていないが、男性の転職活動を促進していることが明らかになった。したがって、転職活動の促進はテレワークによって転職活動のコストが減少したことに起因すると解釈できる。ただし、テレワークによるサーチコストの減少は良いことであるとは一概に言えず、転職による労働者の厚生改善と怠業による企業の生産性の低下の大小関係によって決まるだろう。また、テレワークによってスケジュール調整が柔軟的になり、労働者は怠業をせずに、今の仕事と転職活動を最適に割り振っているならば、サーチコストの減少は転職活動による労働者の厚生の改善のみに影響を与えるので、テレワークによるサーチコストの減少は社会的な効率性を改善すると予想される。